1:オープニング
2:ユーザーを知る/観察 佐々木千穂(株式会社インフィールドデザイン)
東京都の主催者挨拶で幕を開けた、今年度の「デザイン・ツールズ」。第1期には20名の受講者が集まりました。
まずは本講座そのものの成り立ちや、どのような心構えで授業に臨めば効果的か、などを解説しました。

その後は受講生全員で、簡単な自己紹介。自分は今どのような仕事をしているのか、どんな目的で講座に通い始めたのか、などを発表しあいました。
ひととおりの紹介を終え、いよいよスタートした初回講義の講師は、インフィールドデザインの佐々木千穂さん。
「ヒューマン・センタード・デザイン概論」と題した今回の講義では、デザインの根底となる新しいアイデアや問題点の再定義のために、「オブザベーション(観察)」が非常に重要であるというもの。

人々が無意識に行っている行為にこそデザインのヒントがあり、そしてその行動は観察によって発見されます。
インタビューなどはもちろん、観察には定点カメラやロールプレイング、行動サンプリングなど「見る」「試す」「頼む」に分類されるさまざまな手法があります。
徹底的な観察から得たデータを事実として捉え、それを洞察し、望ましい経験をイメージして、発想へと繋げるという一連の行為こそが大切だと佐々木さんは話されました。
また、まとめとして話された「オブザベーションは“魔法の杖”ではなく、あくまでも集まった素材を“料理”する腕の方が大切」というお話も非常に印象に残る授業でした。
講義終了後は飲み物を飲みながら、参加者が交流できる場を用意。
これから8回の授業を共に学ぶ仲間たちで交流を深めました。
1:ユーザーを知る/調査・分析 平川淳二(株式会社イード)
第2回目の「調査・分析」の講義は株式会社イードのシニアコンサルタントの平川淳二さん。
平川さんは大規模な定量調査からグルーピインタビューなどの定性調査や分析など、数々の経験をされてきました。

2コマ通しの講義の最初は、調査の目的と手法について。
人間中心設計プロセスのチャートを用いながら、各段階で最適な手法を適用することを説明していただきました。目的をはっきりさせることが重要だとおっしゃります。 必要なデータを得るために計画をしっかり立てる、仮説発見を心がける、ゴールから遡るなど、ステップと心構えを聞くうちにだんだんと実態が見えてきました。

調査の手法は様々ですが、量的に測れない現象を明らかにする定性調査、量的に測る定量調査の2種類に大きく分けられます。まずは定性調査について、インタビューを例にお話しいただきました。方法ごとに人数や時間、コストなど特徴があり、携帯電話の使い方、親子のコミュニケーション、食品の新製品開発など、対象によって手法を変えているようです。
また、質問にも聞き出したい部分に迫るテクニックというのがあるようで、実演してくださいました。
受講生が持っている携帯電話を例に、「なぜ気に入っているのか」という質問で始め、「具体的にどんな部分が」あるいは逆に「どうしてそれが」という質問を重ねていきます。質問自体が整理されることで、ほんの数分の間に構造化されたデータが得られることに、皆さん驚かれていた様子でした。

後半は定量調査について、アンケートを例に説明してくださりました。インターネットにより、大量のサンプルを集めて全体の傾向を把握することが容易になった反面、不備の訂正など、データを整理する作業もより重要になったそうです。一般的には、複数の設問の相関関係を分析するそうです。インテリアの写真と「先進的」「モダン」などの言葉との結びつきを5カ国を対象に調査した結果を例に見せていただきました。
より複雑な分析には多変量解析を行うようです。その中のひとつ、グループ化して分類する「クラスター分析」について、社員をグループ化した例を見せていただきました。
2コマに渡っての濃密な講義でしたが、これはほんの導入部分。この場だけでは伝えきれないこともたくさんあるそうです。調査や分析を、本格的にやるとものすごく奥の深い世界だということが伝わってきた、という受講生も多かったのではないでしょうか。
1:計画を立てる1/マーケティング 水嶋 敦(株式会社東急エージェンシー)
2:計画を立てる1/商品企画 坂巻匡彦(株式会社コルグ)
前半東急エージェンシーのマーケティング部門でブランド管理とプランニングに携わる、水島敦さん。今回は戦略視点から計画を立てるためのマーケティングの体系についてお話しいただきました。

マーケティングの定義と基本的な体系として、SWOT分析、STP、マーケティング・ミックスなど、用語の説明をしながらマーケティングをどのように行っているかをお話いただいた後、それらを基にした戦略について、製品とブランドをどう位置づけるか、ブランドを構築する意味へとお話は続き、そしてプロモーションへという一連の流れに沿ったお話を頂きました。
2つのアイスクリームブランドを加工技術や原料調達という面での比較、ミネラルウォーターのブランドを性別や年齢から分類したクラスターごとのシェア、ガソリン購入客のセグメント分析、食品パッケージの変遷など、たくさんの具体例を見せていただき、その結果に「言われてみればそうだ」とおもわず納得してしまいます。「ディズニーランド」と「遊園地」の違いがブランドなのだというのは非常にわかりやすく、印象的でした。
欲求の段階モデルや消費社行動といった理論的な話から、実際に市場に出た製品の分析まで会社や製品を定義していくブランディングと、その裏付けマーケティングとの関係が、全体を通して見えてきました。豊富な資料の説得力に惹き付けられた方も多かったのではないでしょうか。
受講生の皆さんも真剣に引き込まれたようで、もっとお話を聞きたいという声も聞こえたほどの非常に充実した講義になりました。

後半のテーマは「商品企画」。電子楽器メーカー・コルグで商品企画を担当する坂巻匡彦さん。
坂巻さんはプロダクトデザイナーとして同社に入社後、2年目からデザイナーでありながら商品企画室へと異動。プロダクト・プランナーとしてさまざまなヒット商品を生み出してきた方です。

坂巻さんは「常にユーザーのことを考えるデザイナーだからこそ、独創的な製品の企画に繋げることができる」と話します。 デザイナーは、ひととものごとの間に立つ専門家。そしてデザインとは、ひととものごとの関係を設計すること。「商品の企画もそれと全く同じ」と坂巻さん。
坂巻さんはデザイナーが持つ職能を3つ挙げ、「感性的フレームワーク力(ある感性を生む構成要素を分析・蓄積する力)」、「問題設定力(おかしな点に気づき、問題として設定する力)」、「包括的問題解決力(複合的な問題点に対して
解決案をアウトプットする力)」と名付けました。
それを十分に生かし切ることが、デザイナーがプランナーとして活躍できるきっかけになるのではないかとまとめられました。

なお、講義中にはご自身が企画した製品「KAOSSILATOR」の素晴らしいデモ演奏なども行い、参加者全員で楽しんで体験するものになりました。
1:計画を立てる1/販売計画 恵元雅之(ヤマト運輸株式会社)
2:企画を通す/プレゼンテーション 車塚元章(インサイト ラーニング株式会社)
前半は車塚元章さん。インサイトラーニング株式会社専属のセミナー講師です。
開始前にはBGMが流れていて、いつもと雰囲気が違っています。
いったい今日は何が起こるのか、という雰囲気の中始まった講義は最初に車塚さん自身の自己紹介、と「この中にも良いプレゼンテーションのポイントがあります」と解説します。
これまでとまったく違う進行に戸惑う暇もなく始まったのが「握手ゲーム」。3分の制限時間でできるだけ多くの人と握手します。もちろん車塚さん本人も参加。スタッフも区別なしです。優勝者には直伝の?色紙が渡されました。
このゲームは何のために?と考えてしまうのですが脳味噌と筋肉をほぐした状態にするのも大事なことなのだとか。

緊張が解けたところでプレゼンテーションがなんであるかを解説して頂きました。
どんなに良い内容でも相手に理解させることが出来なければ何もならないから行うという理由、発表者自身や製品に対して、いい印象を持ってもらうのが目的だということは、人前で話す機会はあっても、あまり意識していなかったことに気付かされた受講生もいたのではないでしょうか。
良いプレゼンテーションは「眠い、つらい、退屈」ではなく、「楽しく、わかりやすく、ありがたい」ものなのだそう。話法について声、視線、表情、ジェスチャーと、一つ一つ意識するポイントを解いていただきました。
これらのポイントを踏まえてペアで互いに自己紹介をしてみます。知っていても実際にやってみると難しいということを実感したのではないでしょうか。

そして構成について。ここでは比較的短いスピーチで、効果的に意思を伝えるための組み立て方を教えていただきました。今度は数人のグループでお互いにそれぞれの仕事について具体的な内容、仕事の好きなところ、その理由を述べるスピーチを組み立ててみます。いままでいかに漠然と話していたかに気付かされた方もいらしたのではないでしょうか。

頭と体をフルに動かしての講義は90分があっという間に過ぎ、皆さんの顔つきも明るくなっていたように見えました。
後半の講義はヤマト運輸の恵元さんによる、販売計画の講義。恵元さんは、法人営業部で流通ソリューションモデルの開発責任者を務められています。

ヤマト運輸の会社の紹介と、宅急便の進化の歴史について説明してくださいました。今やインフラの一部として生活に欠かせないものとなってますが、宅急便事業が始まったのが1976年。わりと最近なんですね。
続いて社内での販売計画の位置づけ、目標設定のしかた、販売管理と供給管理など業務推進をどのようにおこなっているかを説明してくださいました。
ここまでの業務内容を踏まえた上で、いくつかの事例を紹介していただきました。
大手通販事業者が主な担当クライアントですが、商品の配達だけでなく生産者と協力して商品開発もされてるそうです。他にも送り状の発行や決済、完了通知など、開拓してきたサービスは宅配にまつわるあらゆる局面にわたり、すべてが満足創造というキーワードで結びついていきます。
さらに法人向けに、リコールのサポートや過疎地のルート配送を請け負うなど、宅急便のネットワークを使ったソリューションも展開しているのですが、これも満足創造の延長と言えるのかもしれません。
最後は、社内研修用に使用されている映像を見せていただきました。
母の日のプレゼントやビデオレターを届けた話など、全編に渡って社員の直面した感動体験が綴られているのですが、涙なくしては見られません。この感動体験を社内で共有していることが驚きです。

モノではなくサービスを提供する企業の話ですが、どんな価値を提供するかという姿勢に感銘を受けた受講生も多くいたようでした。
1:企画を通す/視覚化 福田哲夫(産業技術大学院大学/インダストリアルデザイナー)
2:懇親会
今回は、初の実践型講義となりました。
講師は、これまで「のぞみ」「つばさ」など新幹線や車両などを多数開発してきたインダストリアルデザイナー、福田哲夫さんです。

具体的な講義の内容は、プレゼンテーションスキルとしての「スケッチ・スキル」のトレーニングと考え方。
「企画を通す」ということをコンセプトに授業を進めていきます。
まずは一人ひとりにペンと白紙が配られ、福田さんから次々にお題が出されます。
なかでもユニークだったのは、同じ対象を何度もスケッチするトレーニング。
「5分」「2分半」「1分」「30秒」…と徐々に制限時間が短くなり、最後には「3秒(!)」まで縮んだ制限時間に受講生は大慌て。
しかし、よく見ると5分間で描いたものよりも、わずか1分間で描いたものの方が的確に対象の特徴を捉えていることが多いのに気づきます。
これはスケッチという手段によって、対象を「観察」して「構造化」「単純化」するという作業を自然とおこなっているから。
これには受講生の多くが新たな気づきを得たのではないでしょうか。

その後も福田さんによるスケッチの実演などを交えながら、「透視図の限界を知る」「白い紙に白いものを描くには?」「線の表情で描き分ける」など、興味深いテーマごとに表現方法を学んでいきました。
自分の想像するイメージを共有化したり、アイデアをメモしたり、打ち合わせで有効に機能したり、と「描く」ことはさまざまなシーンで活用できます。
それを学ぶ基礎の方法として、スケッチが適しているのではないでしょうか。
これまで美術教育を受けたことがある人も、そうでない人にとっても、大きな発見がある講義となりました。

講義の後は福田さんも交えて、受講生同士の懇親会を実施。
初回の講義後に行われた懇親会ではまだぎこちなかった受講生同士も、講義も中盤にさしかかり、今回は互いの仕事での課題などを話し合ういい機会になったようです。
1:計画を立てる2/実施計画 大松 敦(株式会社日建設計)
2:計画を立てる2/宣伝計画 ウジトモコ(株式会社ウジパブリシティー)
今回から授業のテーマは「計画を立てる2」へとステップを進めます。まず前半の講義で「実施計画」をテーマに講義をして頂いたのは、日建設計でプロジェクトマネジメント室長を務める大松敦さん。丸の内OAZOや東京駅八重洲開発、東京ミッドタウンなどの事業を手がけた、プロジェクトマネジメントのスペシャリストです。

ひょっとするとデザイナーにとっては、プロジェクトマネジメントは「やっかいなもの」「面倒なもの」と映っているかもしれません。
しかし経営陣や営業部門、マーケティング部門、ユーザーなど関係者間の調整が必要な職種としては、デザイナーにとっても重要なスキルのひとつなのは言うまでもありません。
大松さんはプロジェクトマネジメントを「プロジェクトの事業主体の要求事項や期待を満足させるため、知識・スキル・ツールおよび技法を適用すること」と定義しました。
講義では「時間」「コスト」「スコープ(必要な作業やタスクなど)」を「プロジェクトの3要素」と捉え、それらをどのようにバランス良く進めていくかの知識を学びました。
講義の最後には、事例として東京ミッドタウンの建築計画を紹介。他では決して聞くことの出来ない貴重な事例を題材に、実際に大きなプロジェクトをどのように推進していったのかを解説していただきました。
後半の講義は「宣伝計画」をテーマにした講義。
講師はビジュアルディレクターとして視覚マーケティングの分野で活躍する、ウジパブリシティーのウジトモコさんです。

宣伝やパブリシティーのためのデザインも、これからは「手足のようなデザイン」ではなく、「思想・哲学・戦略としてのデザイン」になる必要がある、とウジさん。
より上流工程からデザインが関わっていくために「戦略〜デザイン〜宣伝計画をシームレスにつなぐ仕組みづくりも重要だ」と話されました。
また、宣伝のありかた自体も常に移り変わっています。
製品主体の広告を「1.0」と例えると、顧客視点の宣伝は「2.0」。
さらにこれからは、顧客が製品に対して感じる「価値」を主体とした宣伝計画「3.0」の時代になっていきます。
そのためにも、顧客がその製品の何に対して価値を感じているのかから出発する考え方が重要になっていくはずです。
顧客との接点のひとつである宣伝計画が、最終的には上流工程にある“戦略としての”製品デザインに繋がっていく、というのが理想の形ではないでしょうか。
今回の講義は、とくにインハウスのプロダクトデザイナーの受講生にとっては、さまざまな新しい気づきに繋がったようです。
1:権利を守る/知財 日高一樹(日高国際特許事務所)
2:権利を守る/契約・発注 日高一樹(日高国際特許事務所)
7回目の講義テーマは「権利を守る」。講師は日高一樹さんが担当します。テーマは前半が「知的財産権」について、後半が「契約や発注」についてです。

契約や権利について今までの日本企業にありがちだったのは「何かトラブルが起きてしまったら、話し合いで解決しましょう」というスタンス。
ですが、国際化が進むにつれてそれはどんどん通用しなくなっていきます。
アメリカを中心とした欧米文化は、契約社会とも言われるほど。なるべく初期段階から「なにがOKで、なにがNGなのか」を把握することが、その後のトラブルを防いだり、大きな無駄を省くことに繋がります。

日高さんも「これから世界を相手にデザイン活動をしていくためには、自分でやった仕事は自らエビデンス(証拠)をつくる姿勢がとても大切になってくる」と強調されました。
今回の講義内容はひょっとすると、多くのデザイナーが重要と知りながらも苦手とする分野かもしれません。
内容がとても多岐に及ぶために授業内容は駆け足で進むかたちになりましたが、受講生からはかなり具体的な質問が相次ぐなど、関心の高さを伺わせる講義になりました。
1:まとめ 紺野 登(KIRO(知識イノベーション研究所))
2:クロージング
最終回は今までの総まとめとして、紺野登さんに「デザインと経営のこれから」をテーマに講義をしていただきました。

まずは20世紀におけるデザインの歴史をひも解くところから始まり、これまで経営や社会に対してデザインがどのように影響を及ぼしたのかを振り返りました。
産業・工業のデザインから情報のデザインへ。そして、2000年代からは知識のデザインへと役割がシフトし、次第に「デザイン思考」について取り上げられるようになっている状況を改めて学びました。

他にも講義ではデザイン組織を取り巻く状況の変化や、今後の「デザイン」という言葉の持つ意味の広がりなどについても触れ、参加者全員があらためてデザイナーという仕事の原点を見つめ直すものとなりました。
講義の最後には参加者が講義を通しての感想や、そこでどのようなことを学んだのか、講義に対する要望などを一言ずつ発表しました。

講義内容から多くを学び取るのはもちろん、受講生たちは全8回の講義を通して横のつながりを拡げられたことに対しても、大きな意義を感じているようでした。